ある中高年ランナーの悪あが記

長引くハムストリングス付着部炎に悩まされながらも走ることを諦めきれない高齢者ランナーの奮闘記

ATペース走をやってみました!(番外編:脂肪の利用 その1)

 長距離走時のエネルギー源については、2/21のブログ「ATペース走をやってみました!(前編:ATペースとは?)」でご説明させていただきました。

ATペース走をやってみました!(前編:ATペースとは?) - ある中高年ランナーの悪あが記

  ここで、それを少しおさらいすると、

 人間が運動する時に直接用いられるエネルギーは、ATP(アデノシン三リン酸)が分解し、ADP(アデノシン二リン酸)とリン酸に分かれるときに放出されるエネルギーですがATPの体内貯蔵量はごくわずかであり、運動を継続しようとする場合にはATPを何らかの方法によって補給してやることが必要になります。そして、ATPを補給する方法として、人体には三つのルートが用意されており、それはATP-CP系、乳酸系、有酸素系である、ということでしたね

 そして、これがその三つのルートの特徴をまとめた表です。

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池上晴夫著「健康のためのスポーツ医学」より

 しかし、人体にはこの三つのルートのほかに、脂肪をエネルギー源とするルートもあり、このことについては後日お話させていただくということにしていたところです。

 よって、今日は、エネルギー源としての脂肪の役割についてお話します。

エネルギー源としての脂肪の役割 

  まず、先日はグリコーゲンをエネルギー源としたATPの産生の模式図をお示ししました。

 これですね。

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  これに脂肪(脂肪酸)をエネルギー源とした場合を加えると次のようになります。

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 追加された部分がお分かりでしょうか?

 脂肪は、膵臓のリパーゼで分解されて脂肪酸グリセリンになるのですが、そのうち脂肪酸ミトコンドリアに運ばれて、アセチルCoAにまで代謝されます。

 そしてその後は、グリコーゲンをエネルギー源とした場合と同様にクエン酸回路に進み、ATPが産生されるのですが、運動強度が低い場合には脂肪酸が主なエネルギー源として利用されます。しかし、運動強度が高まるにつれてグリコーゲンの分解が進み、逆に脂肪酸の分解は低下するとされています。

 全身の脂肪酸のエネルギー分解は、運動強度が最大酸素摂取量の65%となる、65%VO2maxで最大となり、20%VO2maxと85%VO2maxでは低い、という研究結果もあるようです。

 運動強度が低い場合には主に脂肪がエネルギーとして使われるのにもかかわらず、20%VO2maxの時に脂肪酸のエネルギー分解が低いというのは、単に必要とされるエネルギーが少ないからという理由でしょう。

フルマラソンで不足するエネルギーの脂肪による補完

 ではここで、フルマラソン時に不足すると言われているグリコーゲンによるエネルギーを脂肪で補完できるのか、私を例にとって検証してみます。

①フルマラソン時に必要なエネルギー量とグリコーゲンの量

 まず、人体に貯蔵できるグリコーゲンの量はインターネットの記事などでは、およそ1,600~2,000kcalとされていることが多いようですので私も同じ量のグリコーゲンを貯蔵しているとします。

 一方、私がフルマラソンをサブ4ぎりぎりの3時間55分程度で走ると想定し、その場合の必要とされるエネルギー量を求めます。

 まず、ランニングによる消費エネルギーの計算式ですが

消費エネルギー(kcal)=1.05×エクササイズ(MATs・時)×体重(kg)

となります。このMATs値は、ランニングスピードごとに定められておりますので、詳しくは次をご覧ください。

ランニングの消費カロリー計算方法。効果的に消費するには? | POWER PRODUCTION MAGAZINE(パワープロダクションマガジン)

 そして、私のマラソンレース時の消費エネルギーをこの式に当てはめてみます。

 ランニングスピードが10.8km/時、ランニングの時間が3.9時間、体重が52.5kg、またMATs値は別表により10.5となりますので、

消費エネルギー(kcal)=1.05×10.5×3.9×52.5=2,257

となります。

 やはり、グリコーゲンだけでは、少なくとも計算上では、257~657kcal足りないようです。

②フルマラソン時のグリコーゲンと脂肪の使用割合

 では、この足りない分を脂肪で補完できるのでしょうか?

 体内に貯蔵されている脂肪の量はフルマラソンを10数回~数10回も走れるほどの量があるのですが、運動強度が強くなるに従って脂肪のエネルギー分解が少なくなるといわれているので、そのこととの関連です。

 実際に運動時にはどの程度の割合でグリコーゲンと脂肪が利用されているのでしょうか?

 それについては、運動強度の変化による糖質と脂質の利用割合の変化を示した資料を見つけましたのでご紹介します。

 このグラフの中の左の縦軸がRQとなっていますが、これは呼吸比というもので、呼吸比は、体内で栄養素が燃焼したときに消費した酸素量に対する発生した二酸化炭素量の体積比をいい、糖質だけが燃焼したときには 1.0 であり、脂肪だけが燃焼したときには 0.707 とのことですが、これは今日の話にはあまり重要ではないと思います。

 重要なのは、下の軸の運動強度と右の縦軸の脂質と糖質のそれぞれのエネルギー源としての割合です。 

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厚生労働省:特定保健指導の実践定期指導実施者養成プログラムより

 ご覧いただいてお分かりのように、運動強度が20%VO2maxくらいでは糖質(グリコーゲン等)と脂質(脂肪酸等)はほぼ同程度の消費であり、運動強度が上がるに従って少しずつ糖質の割合が増えていきますが、しばらくは糖質の利用が急激に増えては行きません。

 そして運動強度が60%VO2maxを超えると明らかに糖質が脂質を上回るのですが、それでも運動強度が90%VO2maxくらいまでは、ある程度脂質も利用されていますので、フルマラソンの速度であれば、脂質も利用されていると言っていいでしょう。

 

 このように、フルマラソンのレース時において不足するグリコーゲンを脂肪でおぎなうことは可能なようですが、完全に補完できるかどうかについては、話が長くなりますので、次回、改めてお話させていただきます。またご覧ください。