ある中高年ランナーの悪あが記

長引くハムストリングス付着部炎に悩まされながらも走ることを諦めきれない高齢者ランナーの奮闘記

ランニングの弊害その3(免疫力の低下、突然死)

 ランニングによる弊害や危険性については、次の6つの中から、1/28と2/7の2回に亘って、1の故障から4の活性酸素の過剰発生までお話させていただきました。

ランニングの弊害その1(故障、事故の危険性、貧血) - ある中高年ランナーの悪あが記

 ランニングの弊害その2(活性酸素の過剰発生) - ある中高年ランナーの悪あが記

 

1.故障

2.事故の危険性 

 ①交通事故

 ②夜道や雪道での転倒

3.貧血

4.活性酸素の過剰発生

5.免疫力の低下

6.突然死(心疾患)

 今回は5の免疫力の低下と6の突然死(心疾患)についてお話させていただきます。

5.免疫力の低下

 まず、5の免疫力の低下です。

 一般に適度な運動は免疫力を強化すると言われています。

 しかし、強度の強い運動をすると逆に免疫力は低下します。高強度の運動は、ストレスになり、コルチゾールが分泌されますが、コルチゾールには免疫を抑える作用があるからです。

 では、どの程度強い運動であれば免疫力が低下するのでしょうか?

 「アスリートは風邪をひきやすい?スポーツ医が語る真実」というインターネットの記事に、そのことについての記述がありました。

 免疫機能の指標となるSIgA(分泌型免疫グロブリンA)が下がる運動について、高強度の持久運動、例えば、最大酸素摂取量の75%で1時間の自転車運動をすると分泌量が下がったと報告されており、フルマラソンでは確実に下がる」とのことです。

 そこで、最大酸素摂取量の75%をランニングに当てはめるとどのくらいの速度になるのか、調べてみました。

 そうしたところ、「大阪総合保育大学紀要」に「マラソン記録の簡便な予測法 ―12 分間走テストによる最大酸素摂取量とマラソンレースでの推定%V・O2max の関係から―」という論文があり、被験者のマラソン走行時の%V・ O2maxの平均値は、75.3%V・ O2maxとなっていたことから、おおよそマラソンレース走行時の平均スピードで1時間以上走ると免疫力が低下するおそれがあるということになります。

 よって、時にはこのような練習も必要ではあるとしても、適切に休養も入れて免疫力の低下を招かないよう、そしてマラソンレースの後などは、風邪など引かぬように十分に注意することが大事と思われます。

style.nikkei.com

 なお、私の免疫力低下についての実感ですが、それほど追い込んだ練習をすることは少ないので、風邪をひきやすくなった、というような実感はありません。

 それどころか、6年程前に、風邪による体調不良にもかかわらずフルマラソンに強行出場したことがあり、咳をしながら走って、当然タイムは悪かったのですが、レース後には少し体調が回復しました。

 でも、おそらくレース後に体調が良くなったと感じたのは、レースによって分泌したドーパミン(※幸福感が得られる神経伝達物質)の効果によるものであり、その後は、ちょうど風邪が治る時期になったことによるものと思われますので、皆さんはくれぐれも体調の悪い時にはレースをやめる勇気を持ってください(笑)。

 

6.突然死(心疾患)

 次に、6の突然死(心疾患)です。

 マラソンレース中あるいはレース直後に虚血性心疾患で死亡するという事故を耳にすることがたまにあります。

 なんでも、1992年~2011年8月までの間に開催された国内のマラソン大会では、127人のランナーが心肺停止になった、というデータがあるようです。

 このように、ラソンは危険と隣り合わせのスポーツのように思えますが、実際はどうなのでしょうか?

 この点について興味深いデータを見つけました。

 徳島西医師会の「調査と研究」の「マラソン中の突然死」という記事です。

 この中では、1984年~1988年の5年間に、スポーツ中の突然死例が645例あり種目別ではランニングが165例(26%)、ゴルフが87例(13%)、水泳が80例(12%)と全体ではランニングがトップになっていることを紹介しています。

 ただし、これは、ランニング人口が多いことも、突然死が多い理由になっています。     そして、それぞれの種目について愛好者数が違うことを考慮した危険率では、

危険率=年間死亡者数/(人口×スポーツ参加率×年間参加回数×1回参加時間)

として、60歳以上においては、ゴルフの危険率はランニングの6.5倍にもなっており、ゲートボールもランニングより高い危険率になっているそうです。

 詳しくは、次の記事をご覧ください。

徳島県 徳島西医師会|調査と研究

  この数字を見ると、あまりランニングの危険性は高くないように思われますが、虚血性心疾患など血管に異常がある人は無理は禁物でしょう。

 また、週に60~80マイル(約96~128km)の高強度のランニングは、心原性脳塞栓症を引き起こす心房細動という不整脈リスクを上昇させるという報告もありますので、特に練習熱心なランナーは注意が必要です。

 米国心臓協会(AHA)でも、その声明の中で、適度な有酸素運動心筋梗塞や心疾患死のリスクを半減させる効果があるが、トレーニング強度が激しくなるに従い、逆にリスクが上昇する可能性もある、と言っているようです。

 何事も「過ぎたるは猶及ばざるが如し」ですね。

 以上、3回に亘ってランニングの弊害について、1の故障から6の突然死(心疾患)までお話させていただきました。

最後に

 こうしてみると、ランニングにはリスクが多いようにも思えますが、運動不足のリスクはそれよりもはるかに大きく、わが国では運動不足により年間5万人が死亡しているとの衝撃的なデータがあります

 もちろん運動不足が直接の死因になるわけではないのですが、「死亡に至る因子」として運動不足の占める割合が非常に大きく、1位のタバコ、2位の高血圧についで3位となっています。

  このことについては、次の記事をご覧ください。この中には、6の突然死(心疾患)に関連する「運動量と心血管疾患」の関係も詳しく記述されています。

www.heart-center.or.jp

 そして、以前4回に亘ってお話した「ランニングの効用」と今日を含めて3回に亘ってお話した「ランニングの弊害」をまとめてみると、「適度な運動の範囲内のランニングであれば健康の維持向上には大いに寄与するものの、過度な強度のランニングになれば、健康を害する可能性もある」というありきたりの結論になりそうです。

 ただ、多くのランナーは安全領域にとどまっている適度な運動では満足できないでしょう。それらの人たちはランニングを「エクササイズ」としてではなく、「スポーツ」として捉えているからです。

 スポーツである以上、選手は最大のパフォーマンスを発揮するために健康を維持できるぎりぎりのところまで練習をしたいと思うのは当然かもしれません。

 その場合でも、故障したり病気になったのでは元も子もありません。

 ですので、シリアスランナーに求められるのは、故障や病気のリスクを十分に理解しながら、そこには至らない「閾値」を自分で把握して練習に臨むということが大切ではないでしょうか?

 出来るなら、いつまでも健康で、お迎えが来るまでランニングを続けたいものです。(笑)