一昨日(1/13)は、「ランニングと貧血」と題してランニングが貧血の原因となっている場合があることについて書かせていただきましたが、今日はランニングにはそれらのマイナス面を上回る数多くのプラス面があることを私の実感を交えて書いてみようと思います。
ランニングの効用については、ランニング誌を始めとする雑誌や書籍あるいはTVなどで広く喧伝されていますので、皆さんご存知のことと思いますが、ここで改めて、よく言われていることについて掲げてみます。
1.脂肪燃焼・ダイエット
2.生活習慣病の予防
3.美肌
4.肩こりの改善
5.冷え性の改善
6.ストレス解消
7.脳の活性化
8.良質な睡眠
大体、こんなところでしょう。良いことづくめですね。では、一つ一つもう少し詳しく内容を見ていきたいと思います。
1.脂肪燃焼・ダイエット
まず、1の脂肪燃焼・ダイエットですが、これは誰しもが異存の無いところでしょう。
ランニングは長距離走においては、そのエネルギーを有酸素運動によって賄っており、有酸素運動の際のエネルギー源は、グリコーゲン又は脂肪になります。
そして、運動強度が高い場合にはグリコーゲンが優先して使われますが、運動強度が低い場合には脂肪がエネルギー源として使われることが多くなりますので、長距離の比較的運動強度が低いランニングにおいては、かなり脂肪が燃焼されることになります。
ここで、ランニングによる消費エネルギーの計算式をご紹介します。
消費エネルギー(kcal)=1.05×エクササイズ(MATs・時)×体重(kg)
というものです。このMATs値は、ランニングスピードごとに定められておりますので、詳しくは次をご覧ください。
ランニングの消費カロリー計算方法。効果的に消費するには? | POWER PRODUCTION MAGAZINE(パワープロダクションマガジン)
そして、私の平均的な練習をこの式に当てはめてみます。
ランニングスピードを10.8km/時、ランニングの時間を1時間、体重が52.5kgとすると、別表によりMATs値は、10.5となりますので、
消費エネルギー(kcal)=1.05×10.5×1×52.5=579
となります。
そして、1か月に20日間、この練習をしたとすると練習による消費エネルギーは1か月で11,580kcalとなります。
この消費エネルギーを仮にすべて体脂肪で賄ったとすると、純粋な脂肪は1gで9kcalですが脂肪細胞には2割ほど水分などが混じっていますので体脂肪は1gで7.2kcalとして、1か月で1,608gの体脂肪を燃焼したことになり、ダイエット効果も非常に大きくなります。
これは、あくまで消費エネルギーのすべてを脂肪で賄い、食事等の摂取エネルギーも普段と変わらないことを前提にした計算ですが、実際の私の体重の変化を見ると、
ランニング開始前年の1995年には61kg台の体重が、ランニング開始翌年の1997年には59kg台になり、その後も少しずつ体重が減りました。そして、走行距離が大幅に伸びた2003年には体重が54kg台まで減少し、2021年の現在は52kg台となっています。
このことからも、ランニングによるダイエット効果は間違いがないと言えるでしょう。
2.生活習慣病の予防
次に2の生活習慣病の予防です。
生活習慣病は、食事・運動・休養・喫煙・飲酒などの生活習慣が、その発症や進行に関与する病気を指し、糖尿病、脂質異常症、高血圧症などが代表的なものです。
生活習慣病とランニングの関係を見てみましょう。
①糖尿病
まず、糖尿病です。
糖尿病は、血液中の血糖を一定の範囲におさめる働きを担っているインスリンが十分に働かないため、血糖が増えてしまう病気ですが、ランニングなどの有酸素運動により筋肉への血流が増えると、糖がどんどん細胞の中に取り込まれてインスリンの効果が高まり、血糖値が改善すると言われています。
さらにもう少し詳しく説明します。
早稲田大学スポーツ科学学術院教授・樋口満著の「体力の正体は筋肉」という本の中で、樋口氏は「糖尿病は、筋肉が原因の病気です」といってもいいくらいだと記述しています。その理由は、次のとおりです。
「筋肉細胞内には、GLUT4(グルコーストランスポーター)という糖輸送たんぱく質があります。血糖値の上昇に反応してすい臓から血液中にインスリンが分泌され、筋細胞の表面にあるインスリン受容体に結合すると、細胞内で化学反応が進行します。GLUT4が筋肉細胞の表面に移動してきて、血糖を取り込むためのゲートが開き、そこから血糖が取り込まれるのです。よく運動をしている人は、運動をしていない人に比べて筋肉内のGLUT4の量が2倍ほど多くなっているので、わずかなインスリンですみやかに血糖値を低下させることができます。」とのことです。これが、「インスリンの抵抗性の改善」なのでしょう。
私は、過去も現在も糖尿病ではありませんので、ランニングによる糖尿病改善の効果を実感することはありませんが、運動をやめてしまうとわずか3日ほどでその効果が失われていくという話もありますので、休養も大切ではあるものの、あまり間を空け過ぎないで走り続けようと思っています。
②脂質異常症
次に、脂質異常症です。
脂質異常症は、かつては高脂血症と言われ、体内で脂質の流れがうまく調節できなくなったり、食事として体内に入ってくる量が多くなり過ぎたりして、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪が多くなり過ぎている状態又はHDLコレステロール(善玉コレステロール)が少なくなり過ぎている状態が続く病気です。
そして、脂質異常症に対するランニングの効用についてです。
ランニングなどの有酸素運動がHDLコレステロールを増やすことは以前から言われていたことですが、その機序は私は知りませんでした。
また、中性脂肪(トリグリセライド)の血中濃度を下げることについては、有酸素運動により血液中の脂肪酸が大量に消費されるのでそれは当然の結果だろうと単純に考えていました。
そこで、せっかくの機会ですので、有酸素運動が脂質異常症を改善させるその機序をインターネットで調べてみました。
しかしこれはなかなか複雑なようで、ほとんどの記事が「脂質異常症の改善には有酸素運動が有効である」というような結論だけで、その機序が示されている記事はなかなか見当たりません。
そのような中でようやく、厚生労働省がアップしている「e-ヘルスネット」に「脂質異常症を改善するための運動」という記事を見つけました。
これによると、「有酸素運動が血中脂質レベルを改善させる機序として、筋のリポプロテインリパーゼ活性が増大し、トリアシルグリセロール(血中カイロミクロン・VLDL・LDL)の分解を促進させることにより、HDLを増やすことが関与していると考えられます。」とあります。
でも、これでは、私にはよくわかりません。
まず、聞きなれない言葉を調べたところ、次のとおりでした。
トリアシルグリセロール・・・中性脂肪の一つ(※ほとんどを占める)
ということです。
そして、最初の「有酸素運動により、筋のリポプロテインリパーゼ活性が増大する」という部分ですが、2014年に東大大学院 農学生命科学研究科の佐藤隆一郎教授らの研究チームが発表した「運動による脂質代謝改善効果の分子機構を解明」という研究では、「運動による代謝改善効果の分子機構は、骨格筋においてエネルギーセンサータンパク質AMPKを活性化することから始まり、PPARγ1の上昇を介してリポタンパク質リパーゼLPLの発現が亢進する」という経路を、初めて明らかにしました。
その内容は、次のとおりです。
運動による脂質代謝改善効果の分子機構を解明 - エネルギーセンサータンパク質AMPKの骨格筋における新たな役割 -
なるほど。これで「有酸素運動により、筋のリポプロテインリパーゼ活性が増大する」という部分は分かりましたし、その結果、トリアシルグリセロールの分解が促進されることも、リポプロテインリパーゼとトリアシルグリセロールの言葉の意味から納得しました。
ただ、最後のトリアシルグリセロールの分解を促進させることによりHDLが増えるところの機序が分かりません。
そこで、このことを解説した記事が無いか、インターネットで探してみたのですが、見つけることができませんでした。
よって、有酸素運動が脂質異常症を改善させる詳しい機序を最後までここで説明することはできませんが、有酸素運動が中性脂肪の分解に寄与するところまでは分かりましたので、まあ、半分くらいは納得です(笑)。
なお、有酸素運動による脂質異常症の改善について、インターネットの記事では、そのほとんどが、効果的な運動として、速歩きやスロージョギングなどの中等度の強度の運動を推奨しています。
では、それらより強度の高いランニングには、その効果は無いのでしょうか?
これについては、良い記事を見つけました。
現在、昭和大学医学部循環器内科の教授である木庭新治氏の論文で「脂質異常の人のための適度な運動」というものです。
その内容は、「平均年齢44歳の男女2,242人を、運動習慣が無い無運動群(0)、散歩などの軽い運動を週3回以上行っている軽度運動群(1)、週1~2回の筋力トレーニングなどを行っている中等度運動群(2)、ジョギングなどを30~60分週3回以上行っている過度運動群(3)、マラソンなどを行っている耐久性運動群(4)の5群に分けて比較したところ、運動量の増加と血清中性脂肪値は負関係が、また、HDLコレステロール値とは正関係が認められた。
そして、運動量が1群増すごとに中性脂肪値は10mg/dl低下し、HDLコレステロールは5mg/dl上昇した。」
というものでした。
つまり、スロージョギングなどよりももっと速い速度のランニングの方が中性脂肪の減少とHDLコレステロールの増加に、より多く寄与することが明らかにされたのです。
なお、私の検査値ですが、持っているデータの中で唯一、ランニングを開始する前のもので平成5年12月(41歳)ですが、中性脂肪(基準値30~149)は106と基準値の真ん中より若干上になっています。そして、直近は令和2年10月(68歳)のデータですが、57となっておりランニング開始前の半分程度になっていますので、ランニングの効果は十分ありそうです。
また、HDLコレステロール(基準値40~)については、ランニング開始前のデータはありませんが、ランニング開始後2年を経過した平成10年11月(46歳)には67だったのに対し、直近の令和2年10月(68歳)のデータでは77となっており、基準値をクリアするのはもちろん、以前よりも若干良い数値となっています。
③高血圧症
次に、高血圧症です。
もう20数年前に読んだ本では、高血圧症のほとんどを占める本態性高血圧については、その原因ははっきりしていないと書かれていたことを記憶しています。
よって、ランニングが高血圧症の改善に寄与する理由は、はたして分かるのか不安でしたが、一応、調べてみました。
そしたら、これは簡単に見つかりました。
最も分かりやすいのは、医療法人有光会サトウ医院のHPの中の「高血圧にとって運動はいいの?悪いの?」という記事でした。次のとおりです。
「一般的に適切な運動療法が軽~中等症の高血圧患者さんの血圧降下に有効であることはいくつかの調査によって確かめられています。その機序として、運動を続けることによりタウリンやプロスタグランディンといった血圧を下げる物質の体内での産生が亢進し、逆にカテコラミンなどの血圧を上昇させる物質の産生が減少することなどが挙げられています。また、運動を続けることでストレスや肥満を解消させることも高血圧治療には有効となります。」と、なぜ運動が高血圧症の改善に寄与するのか、その理由を明確にしています。
また、運動トレーニングと高血圧症の改善についての詳しい研究結果も見つけました。
現・筑波大学体育系教授の前田政清司氏が執筆した「身体運動と心血管系機能」という記事で、「有酸素運動の継続により大動脈伸展性が増大し、血圧の低下をもたらす」というものです。
また、この記事には、「身体活動には、加齢に伴う大動脈伸展性の低下を遅らせる効果がある」ことをデータで示していますので、私のような中高年ランナーには励みになります。興味があればご覧ください。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits1996/11/10/11_10_36/_pdf
なお、私の検査値ですが、最も古いのは平成11年10月(47歳)の時のもので、最高血圧が140、最低血圧が92と高めでした。その後は、最高血圧が130台、最低血圧が80台のことが多く、直近の令和2年10月(68歳)には、最高血圧が126、最低血圧が82と基準値以内に収まっています。まあ、血圧は1日のうちでも変動しますので検査値はたまたまかもしれませんが、一般的には血圧は加齢とともに増加する傾向にあるにもかかわらず、逆に減少傾向にあるということは、ランニングの効果かもしれませんね。
ようやく、「2の生活習慣病の予防」まで終わりました。「3の美肌」から「8の良質な睡眠」については、後日にしたいと思います。
長々とお付き合いさせてしまい、すみませんでした!